
どんなことに取り組む時も、自分自身が心地よい状態であることが望ましい。なぜならばそれが、良い結果を生む可能性を最大限に高めてくれるからだ。気持ちよくなければ集中できず、得るものは少なくなってしまい、やらされてる状態と同じことになってしまうのだ。前回は相撲術の講座の内容に触れ、「顔」を作るということをお伝えした。
※前回の記事はこちらから。
元関取が語る!土俵で学んだ歩き方【Vol.02相撲と健康?相撲術の中身をほんの少し公開】
顔はその人の窓口・玄関であり、他者との触れ合いで一番初めに見られる箇所である。その顔を作るというのは、物事を始めるスタートを切るのに重要な方法であり、そうすることで教える側が発したことを、受け取る側には余すところなく吸収してもらい、有意義な講座にするのだ。お越しになった方々に、何か手応えをつかんで帰っていただくための手最良の手段なのだ。今回も前回に引き続き「顔」についてさらに深掘りしていきたいと思う。
相撲術的に「顔」は受け皿、つまりは器であると考えている。外から入ってくる情報や取り入れようとする知識を、おいしい料理に置き換えたなら、器に盛り付けをするように、情報をしっかり取り込まなければいけない。相撲術の「顔」である口角を上げた状態が、食器であるならば底が上向きで、しっかりと盛り付けができる状態だ。逆に口角を下げた状態だと気分が乗らず、人の話を聞く状態にはなれない。それが食器であれば、底が下向きでひっくり返った状態だ。当然料理は盛り付けられず、何も受け入れられない状態になってしまう。最初に心の器を正しい位置に据えることができても、途中の心変わりで不機嫌になってしまえば、器はひっくり返りこぼれ落ちてしまう。笑顔によって清々しい状態であること、情報を取り入れる態勢が整っているようにしなければならない。それは受け取る側だけではなく伝える側も同じで、その場の全員が「顔」を作る。

さて、現代の人々の表情はどうなっているだろうか?常に素敵な笑顔でキラキラ輝いている表情をしてる人がどのくらいいるだろうか?そんな人を見かけることが本当に稀になってしまい、笑顔でいる人が逆に奇特にさえ見える。そのくらい笑顔の人が減ってしまい、疲れ切って何か思い詰めた表情で口角は下がり、器の底が下向きになってしまっている。料理でいう盛り付けができず、他者からの学びを受けようという気が起こらない。こんな状態では何をするにしても億劫になり、生きる力は失われる。学びがなければ、その人の成長する機会はなくなってしまうのだ。
そこで相撲術的「顔」を作ることをお薦めする。本来ならば心の状態を常に気持ちよくといきたいところだが、なかなかそれも難しく、どんなに気分が乗らない状態でもひとまず「顔」を作ってみることにチャレンジして欲しい。いまいち気乗りしない心を、「顔」によって引っ張り上げてほしいのだ。心→体ではなく、体→心を引き上げていくイメージで捉えてほしい。早速口角を上げるという動作をやる。一瞬だけなら簡単にできるが、上げ続けるのはどうだろうか?誰もが経験したことのある写真撮影の時に「はい笑ってー」と言われ、シャッターを切るまでに長い時間だときつくはなかっただろうか?

口角を上げ続けるのは集中力が必要とされ、そこそこの運動になる。しかし気が付けば、口角は下がってしまっている。これを何回も気付くことで、徐々に自然に上げ続けることに慣れてくる。一朝一夕に成し得るのではなく、粘り強くやり続けやがて会得する。自分自身に目を向け、気付きが増えてくるほどゆとりが生まれ、他人への気遣いもできるようになるのだ。いざ鏡の前で口角を上げ自分のベストな「顔」の感覚を覚える。初めのうちはすぐ忘れて口角が下がってしまうが、少しづつ口角が上がった状態が当たり前になる。そうすると、どのような変化が起こるか?まずはマイナス思考が消えていく。心が冴えないから表情が暗くなるのではなく、冴えない顔をしているから、暗い気持ちになると思えばいい。明るい表情によって、マイナス的な考えである怒りや不安・悪口が、だんだん言えなくなってくる。こうなれば自分で対処できることに気付き、生きる自信を獲得する。すぐにお医者さんにかかりつけるのではなく、一度自分の力で試してみてほしい。
口角を上げるという行為は、良い表情を作るときだけではない。山や自然豊かなところで美味しい空気を吸う時にどんな顔になるだろう?両手を目一杯広げ、思い切り息を吸い込む時には良い表情になるはずだ。重量挙げの選手がいざバーベルを持ち上げる時どんな顔をしてるだろうか?やはり口角はあがっている。顔を作っている時というのは、体全体動かしており、一番力がみなぎる時なのだ。表情豊かな人は体の姿勢も正しい、その秘密は顔と最も連結される部分が「お腹」であるためだ。お腹・腰周りは体の中心、文字通り要である。ここには丹田と呼ばれるツボがあり、古代代中国の医学では丹田に力を入れれば健康と勇気を得られると考えられてきた。顔を作ることによって、丹田にも力が入り人の体も元気になるのだ。昔の人がこのような体の感覚が備わっていた証拠がある、それは言語にあり、「腰を据える」「肚を決める」「肝が据わる」などお腹周りを使った心情を表す表現があった。

しかしなぜ、それほど難しくはないこの作業を人々はいつしかできなくなってしまったのか?それは日常生活において、真逆の行動を取っているからだ。一つはスマホを見ているときである、自分が知りたい情報を簡単に手に入れることができるという便利の反面、表情がなくなってしまう。脳みそだけフル稼働させ膨大な情報量を詰め込み、その時体の意識は遠のき、無に近い状態である。この時もし自分の身に危険が迫ってきたならまず、助からないであろう。もう一つはマスクだ、耳にかけたゴムで引っ張られ、表情が作れない。口を塞いでるため、他者からの視界が入らない領域になり緊張感も抜ける。鼻だけでは呼吸がしづらく、口もポカーンと開いてしまう。ご自身で鏡の前でマスクをした状態で立ってもらい、表情を変えずに外してもらいたい。一体どんな顔になっているだろう?
今に時代は知識は得やすいが、知恵が得にくくなっている。人は本来知識を手に入れる上で、幾つかの課題を乗り越える必要があった。魚を食べたい、どんな味がするか知りたいなら、釣りに行って捌いて味わうという工程があった。これだけで、知識と知恵二つを同時に得ることになる。釣りは竿を垂らせばいいわけでもなく、魚を捌くことも包丁を扱わなければならない、これが本来の成長なのだ。なんの疑いもなく皆んながしているマスクに効果はあっただろうか?感染者数は減っただろうか?本当に病気になりたくないなら、姿勢を正して口角を上げて鼻で呼吸をし感染しにくいようにするとか、食べるものの栄養のバランスを考えたり、睡眠・休養は取れているのか確認をし、免疫力を高めることに努めた方が良い。

スマホもマスクも使っちゃいけないとまでは言わない、しかし身体的にこのような作用があるのだという心づもりだけはしていただきたい。どうしても使わなければいけない時は、顔をはじめとした身体感覚を忘れないでほしい。そうすることで、意識が遠のくのを少しは防げるかもしれないから。
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【上林義之】
元力士大岩戸、本名上林義之。OfficeOōiwato(オフィスオオイワト)代表。現AbemaTV相撲解説者。相撲の運動を活かして介護施設や保育園・幼稚園で相撲レクリエーションを行っています。その他、講演活動やヘルスケアイベントでの講師なども。お問い合わせは当ホームページよりご連絡ください。